1つ優勝したら、またもう1つ勝つことを目指す。個人の賞やキリのいい数字、記録…そういうものには魅力を感じないみたい。そんなにこだわってないんだよ。
ライアンギグス インタビュー 2007年6月8日 マンU公式ホームページより
このブログを書きはじめた最初から、ライアン・ギグスのことはずっと書こうと思ってきた。大好きな選手だし、マンチェスターユナイテッドで、ずっと活躍している。
さあ、来週はギグスについて書こう、と思うのだが、どうもうまく書けない。
エピソードはいろいろ探した。
ライアンギグスを見い出したのが、スカウトではなく、マンチェスター・ユナイテッドのグラウンド整備の人(part-time ground steward)だったこと。そのころ、ライアンギグスは、宿敵のマンチェスターシティの下部組織でプレイしていた。
ギグスを見つけたグラウンド整備のハロルド・ウッドが、ギグスをなんとかユナイテッドに引き込むために考えたのが、彼がゴールを決めるたびに、1ポンドずつギグスにボーナスを上げることだ。(どうもそのボーナスは、プロになっても続いていたようだが、今でも続いているかは不明)
「マンチェスターユナイテッドの大ファンなのにマンチェスターシティで練習している子がいるんですよ」
ハロルド・ウッドはある日、そうアレックス・ファーガソンに助言をする。その助言をきちんと聞いたファーガソンが、ギグスを練習に呼ぶ。ギグスをはじめて見たファーガソンは感激した。その感激の仕方はちょっと大げさすぎるぐらいだ。
「彼を目にして、監督になって以来流してきた汗と欲求不満と惨めさがすべて吹き飛んだ。めったに得ることができないかけがえのない瞬間だった。川も山もすべてさらった後に、突然金塊を前にしていることに気づいた金掘りだって、その日ギグスを目にした私ほど幸せではなかったにちがいない」
ファーガソンの自伝より
『Giggsy: The Movie』を作るなら誰に自分を演じてもらいたいか、と聞かれて、若いロバートデニーロがいいな、と答えたという話。サッカーを辞めたらレストランを経営したいと言っている話もあった。店でスーツを着て、お客を迎えるギグス?似合わないよな。
どうも好きな選手だから書きにくい、というのがあるのだろう、と思う。
気の利いたエピソードを拾って、ピンで彼を壁に飾る、ということがどうしてもうまくいかない。まとめられないのだ。
ギグスの最高のプレイの一つは、97年のFAカップ準決勝のアーセナル戦でのゴールだろう。
その試合は、三冠がかかったFAカップの準決勝で、しかもいったん0-0で引き分けになったための再試合だ。その再試合もなかなか決着がつかない。どうなるんだよこの試合、と思いつつ、試合は延長へ。
アーセナルのビエラが、スペースに長めのパスを出す。そのパスを走りこんできたギグスがカットする。位置はハーフラインよりも少し手前、ゴールまで60mとだいぶ距離がある。
ギグスがドリブルをはじめる。アーセナルディフェンスは二人、三人とギグスを囲む。しかし安易には飛び込めない。パスを奪われたビエラも、ギグスのそばまで戻って、彼のパスを警戒している。
ギグスは、細かく刻みながら進んでいく。ゴールを意識したのは、ドリブルの途中からだとギグスは証言している。進んで行ったら、どんどん行けちゃったんだ、みたいな話もあった。
ドリブルは時として、二人にマークされた方が抜きやすいものだそうだ。ディフェンス二人の間を抜くと、一気にフリーになれる。
ギグスもディフェンスを避けずに、むしろ接近していく。そして、彼を挟んでいた二人のディフェンスのちょうど真ん中を、突然スピードを上げて抜けていく。
ギグスがフリーになる。その位置は、ゴールの少し左手横、目の前にはキーパーだけ。
ギグスが左足を振りぬく。ゴールがネットにささる。
ギグスは喜びのあまり、ユニフォームを脱ぐ。すごい胸毛を見せて、ユニフォームを頭の上でぶん回して走る、とても話題になったシーンだ。
今でもインタビューでよくそのことを、からかわれている。
「次にユニフォームを脱ぐのはいつだい?」
「やめてくれよ、その話は」みたいな感じだ。
ファーガソンは子供のような顔をして喜んでいる。選手がギグスを取り囲む。若いサラサラヘアーのベッカムも輪の中にいる。サポーターがグラウンドに降りて駆け寄ってくる。
アナウンサーは、もうすんごいゴールだ、絶対にすんごい(absolutely magnificante)と何度も何度も叫んでいる。
あれからずいぶんと時間が経過した。ギグスは、ウェールズ代表を引退し、先日はプレミアリーグ100ゴールというのを決めた。
OBE勲章という、ビートルズがもらった勲章よりちょっと上のやつを女王様からもらったりもしている。ちょっと照れて居心地が悪そうな顔をして、写真に写っている。
あれだけたくさんの栄光を手にしながら、家にはカップやトロフィーを飾らない。それは、常に次を見ていたいから。
「家にメダルは飾っていない、ゲームから帰ってきて見たいと思わないからね」
ギグスのプレイスタイルも、やはり年齢とともに変わった、という話だ。昔のようなスピードがなくなったからね、とギグス自身も言っているようだ。
確かに、最近はドリブルのシーンが減ったのかもしれないが、どうも僕にはちっとも彼が衰えたようには見えない。
100ゴールを決めた同じ日のダービーとのゲームで、イチローの返球のようなパスをルーニーに通すシーンがあった。ルーニーのゴールが決まらなかったから、あまり話題にならなかったが、すごいパスだった。今でも、セットプレーも含めて、ギグスがゴールの起点になるプレイは多い。
ロイキーンは監督になっている。ベッカムはアメリカに行った。シュマイケルは息子がプレイしている。ずいぶんと周囲が変わったのに、、、
いろんなものが変わってきたはずなのだが、ギグスは、ちっとも変わっていない。
マンUの試合を見る。ギグスがいる。ちょっとしたパスを見て、また唸っている。
「ああ、変わらないな」と思う。
日に日にその変わらないことの凄さが実感される。
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