「代表では最も優れた自国の選手を集め、その特徴や長所をなるべく生かした上で、彼らをより融合できる戦術を適用する。クラブチームの監督はクリエーター、代表チームの監督は運営者と言えるのではないかな」
クラウディオ・ラニエーリ ユーロ開幕前のフットボリスタ 2008年7月1日
ユーロ2008が終わったのに、録画した映像を何度も見続けている。何度見ても面白い。雑誌やネットを読んでいても、幸福感に満ちた評論が多い。誰もがスペインの美しいサッカーの優勝を、素直に喜んでいるようだ。たまには美しいサッカーの優勝があってもいいよね? そんな感じだ。
前回2004年大会のギリシャ優勝とはまったく違う。前回大会のギリシャは、セットプレーとマンツーマンディフェンスで、美しくない勝利を重ねて優勝されてしまった。美しいサッカーを展開した開催国のポルトガルが決勝で敗れたときは、ライターたちも、コメントのしようがない感じだった。
スペインの優勝とギリシャの優勝はまったく反対だ。美しいサッカーと、美しくないサッカー、セットプレーとパスサッカー、背の高いチームと背の低いチーム。
いや待てよ?そうでもないかな?
「実はギリシャの優勝とスペインの優勝には共通点がある」
そんな、無理やりな仮説を立ててみたらどうなるだろう。
つくづくあまのじゃくな性格だ。でも屁理屈なりに、類似点が出て来るだろうか?
まず両方とも監督がおじいちゃん、というところからはじめてみる。
2004年ギリシャのオットー・レハーゲル監督は当時も65歳、今大会優勝のスペインのアラゴネス監督とほぼ同世代で、二人とも今大会の最長老監督だ。
代表監督は年寄りがいいってこと? まさかね。
スペインのサッカーは攻撃的に見えるが、守備ブロックは低目だった。カウンターでディフェンスの裏を取られることを警戒し、特に相手のサイド攻撃を無力化する点が特徴だった。サッカーは全体に遅い雰囲気で進み、ドイツやロシアは自分たちのリズムが作れずやりにくそうだった。
守備やポゼッションの状態から、いざ攻撃へスイッチが入ると、格段に速くなった。
フェルナンドトーレスのスピードが爆発し、ペナルティエリアで飛び込むシャビにピンポイントの鋭いパスが通った。
ギリシャはどうだったのだろう。当時の映像は持っていないので、2004年のレポートを読み返すしかない。それを読むと、ラインを低く設定し、ゴール前のスペースやサイド攻撃を消していた点は同じだ。相手のやりにくいリズムでゲームを進めた点も、似ていたといえなくもない。
数少ない攻撃時には、マンツーマンを捨て去り、人数をかけて一気にしかけた。記憶の中のギリシャ代表は、鈍重な印象だが、セットプレーに持ち込めたのは、攻撃への切り替えに迫力があったからか。
二つとも、スターやヒーローが見つけにくい優勝チームと、言われている。
スペインはラウールという絶対的なエースをはずしたことで、チームバランスが保たれた。トーレスもセスクも、絶対的なレギュラーではなかった。
ギリシャは、もともとスター選手がいなかったのだが、いずれにしろ、チーム内のパワーバランスは保持され、大会を通じてギリシャ代表の結束はどこよりも強くなった。
対照的に、オランダはロシア戦でのスナイデルの不調やロッベンの怪我が、敗因の一つだったように見える。チェコのロシツキの不在、決勝でのドイツ代表バラックの怪我、ポルトガルのロナウドの依存度の高さ、スイスがフレイの負傷に泣いたこと、イタリアのトニの目を覆いたくなる決定力不足。
チームのヒーローの怪我や不調は、これらチームのバランスを崩したようだ。
もう少し決定的な共通点は、チームと選手の特徴を極限化したことだ。今大会のスペインは、スペインらしさが120%出ていたことに誰もが同意するだろう。
2004年のギリシャも、背の高さなど、持ち駒の特徴を極限化しなければ、あの優勝はなかったはずだ。
二つのチームが、モダンなサッカー戦術からはちょっと遠かった点はどうだろうか?
2004年はすべてのチームがギリシャよりモダンだった。2008年のスペインはセナを中心とした厚い中盤が効いていたが、恐らくロシアやクロアチアの方が流行の戦術だったろう。
モダンサッカーからずれたスタイルは、意外性を持ち、それがなぜか相手の無力化になっている。
スペインは、自分たちのパスサッカーの特徴を出しきったことで、前線からボールを追い回すロシアのような「走る」チームを疲れさせていた。
ギリシャも同様に、つまらないと批判され続けても、自分たちの特徴を出しきり、ポルトガルやフランスといった華麗なチームの特徴を消しまくっていた。
自分たちの特徴を出しきると、そのまま相手を無力化できた。そんな一石二鳥は、チームの迷いを少なくし、選手たちの疲労も小さくしたはずだ。
二人の老練な監督は、余計な考えを排除し、特徴を生かしきり、迷いなく自分たちの戦い方を徹底させた。考えてみたら極めてシンプルな取り組みだ。
二つの優勝チームの代表監督は、熱血リーダーでもなければ、相手ごとに戦術を変える手品師でもない。ましてやクリエイティブなアーティストでもなかった。
思いきり枝葉をそぎ落とすと「一番ありのままを出しきったチームが、優勝にはまった」と言えないだろうか?
「代表では最も優れた自国の選手を集め、その特徴や長所をなるべく生かした上で、彼らをより融合できる戦術を適用する。クラブチームの監督はクリエーター、代表チームの監督は運営者と言えるのではないかな」
クラウディオ・ラニエーリ ユーロ開幕前のインタビュー
「ありのままを出しきったらはまる日が来る」そんな幸運に巡り合うのが優勝の条件なら、僕らがユーロから学べることはそれほどない。何年かかっても、ありのままの日本代表を突き詰めよう、というそんな当たり前の結論だ。
スペインのここを学べ、ギリシャのこの部分は日本に応用できる。優勝チームが決まると必ずそんな話が出るが、どうもそういうことではなさそうだ。
日本最大の欠点である「決定力不足」も、あまり気にしない方がよいのかもしれない。スペインのディフェンスの弱さという側面は、今回はほとんどクローズアップされなかった。ギリシャには多くの欠点があったはずだが、勝ってしまえば議論の対象になっていない。
はまる時は、チームの欠点も消えるらしい。
日本は決定力のあるフォワードは諦めて、相手にファールをさせてしまうフォワードという選択肢をとれば、遠藤のPKや俊輔のセットプレーが武器になって、案外はまるかもしれない。
オシムの日本代表に、ジーコ時代の鈴木隆行が入ったチームは、極めて日本的というか海外にはあまりいない嫌なチームかもしれない。ユーロに出れば、意外に勝てるかも。
遠藤がセナをいなしたパスから、中村憲剛の速い縦パスが鈴木に通り、慌てたプジョルが飛び込んでファウルの判定。俊輔のフリーキックをカシージャスが見送る。
うーーん、その前にスペインに3点決められて終わりか。
今が無理だとしても、結局は日本代表も自分たちの特徴を出しきる道を進んでいくしかない。そうすればいつか「はまる」時が来る。
ユーロから学べるのは、日本の特徴を出しきること。
なんだかオシムの言っていたことに行きついちゃった気がする・・・
やっぱり大事なのは監督の年齢なのかな?
スペイン代表の成功の陰にアラゴネス監督 AFPBBNews 2008年6月30日
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