僕はいつでもバルサファンだ。チームを変えても感情は変わらない。でもアーセナルは僕にチャンスをくれた。それは、駅で乗らなきゃいけない電車が来たみたいなものだ
2005年10月2日THE INDEPENDENTのセスクの発言
イニエスタとセスク、この二人のことを書こうと思って、ずっと考えていた。
インターネットにも、「セスク対イニエスタ」の対決スレッドが立っていたり、ヤフー知恵袋で「いったい二人のどっちがうまいのか?」と質問していたり、二人を比べた動画がニコニコ動画やYouTubeにあがっていた。
セスク支持派は、文句なしにセスクの方がすごい!と言い切り、イニエスタ派はどこに目をつけているんだ、とセスク派を非難する。
そんな議論を見ていたら、中学時代に友人と議論した「ポールがすごいか? ジョンの方がすごいか?」という話を思い出した。ビートルズのどっちがすごいか、と結構本気で言いあいをした。
おさらいをしておくと、セスクもイニエスタもバルセロナのカンテラ(ユース)出身だ。二人は同じ5月生まれだが、イニエスタが3つ上。
セスクは生まれもバルセロナだが、イニエスタは12歳の時に他の地域から、バルセロナにスカウトされてやってきた。
イニエスタは18歳でトップチームに上がった。セスクは16歳のとき、ベンゲルさんが極めて強引に、家族ごとアーセナルに移籍(?)させた。二人は、それぞれのチームで今や柱になっている。
イニエスタは、サッカーの有名選手らしからぬ、弱虫な顔をしているが、実際のプレイはミスがない、ほぼ完璧な印象だ。相手を交わす動き、ほんの少しだけタメを作ってゴールにつながるパスを決めたり、ディフェンスが足を出せない狭いところにパスを通す。
代表でもバルサでも、ウイングでプレイすることもあるが、メッシを除けばウイングとしても彼が一番だろう。
セスクは獲物を狙うような鋭い目に、少しだけ優しい感じがまじっている。そのパスも同じくらいやばい感じだ。味方の選手は、セスクにボールが出た瞬間から、セスクにパスをもらうために決定的なスペースに走り込む。
セスクがボールを受けてから、決定的なパスを出すまでのスピードが速い。よく見ると止めて蹴っているのだが、タンと音がしたと思うと、一瞬でフィールドの局面が決定的な場面に変わっている。もちろんセスクが微妙なタメを作るときもあり、フィールドの時間と空間をコントロールしている。
顔ではセスクが勝っている。でもイニエスタの顔も十分味わい深い。
家に帰ってセスクがいたら驚くが、イニエスタに「やあ、お帰り」と迎えられても、全然違和感がない。
総合力ではイニエスタだが、野心にあふれたメンタルを加味すれば、セスクの醸し出す雰囲気は上を行っている。
スペイン代表ではユーロ2008で共演を見せた。イニエスタは不動のスタメンで、セスクは控えや途中交代も多かったが、決定的な仕事をいくつかしている。
ドイツとの決勝戦では、セスクとイニエスタが完璧なワンツーを交わしていた。
二人に共通点はあるだろうか?
プレイそのものは、あまり似ていないが、二人とも若いのにとにかくレベルが高い。
視野が広く、スピードとタメとゲームのスピードをコントロールする能力も持っている。パスもドリブルもシュートも場面ごとに、最適な使い分けができる。派手なプレイは少なく、自らの技に溺れることもない。敵が来てもボールを奪われず、相手の動きさえ計算に入れている、と思わせる場面も多い。すべてのプレイに無駄がなく、とにかく効率的だ。
二人はどう思っているのだろうと、発言を探したが、互いを語るコメントは、ほとんど見当たらない。イニエスタが二回だけ、セスクに触れていた。「いつかセスクとプレイする日が来るだろう」という古いコメントと、「セスクと決勝戦で戦えるなんてすばらしいことだし、楽しみだね」とお利口なコメントを残していた。それぐらいだ。
プロのサッカー選手同士というのは、不思議な関係だ。
互いに上を目指して競っているので、友人という関係にはなりにくい。それでも、年齢が近かったりポジションが近ければ、ユースのころからお互いをよく知っている。
言葉を交わさなくても、表現するプレイは明確に頭に残っている。うまいか下手かはすぐにわかるし、レベルの高いもの同士は、言葉にならない深い関係が積み重なっていく。
シャビはイニエスタを意識し、イニエスタはセスクを意識する。セスクは同年代のメッシが先に上がっていくのを見ていく。イニエスタがバルサの控えだったころ、セスクはアーセナルでスタメンを張っていた。スペイン代表ではセスクの方が、ベンチからイニエスタを見ているゲームも多くあった。
僕がバルサに来て最初の内は、あんまり良い思い出が無いんだ。とても小さかったし、時に凄く孤独を感じた。だけど、チームメイトや監督が助けてくれたお陰で、僕はそうした辛さを乗り越え、ここまでやって来られたんだ
2001年のイニエスタの発言
僕はいつでもバルサファンだ。チームを変えても感情は変わらない。でもアーセナルは僕にチャンスをくれた。それは、駅で、乗らなきゃいけない電車が来たみたいなものだ。人生のチャンスなんだ
カンテラという場所から、トップチームに進めるかどうか、それぞれが生き残りの不安を抱えて時間を過ごす。
互いを意識し、互いのプレイを見ながら、自分はどこまで行けるだろうと思う。
シャビやデコがいて自分の場所はあるだろうか?
このままバルセロナで上を目指しても、スタメンでプレイするのに、いったいどれだけ時間がかかるだろうか?
イニエスタは、シャビが負傷したタイミングで、才能が認められ、デコが抜けるころには中心選手になっていた。セスクはビエラの離脱で才能が開花し、アンリが抜けて爆発する。
この二人の間に流れる行間は、とても言葉にできない。
「ストロベリーフィールズフォーエバーとペニーレインのどちらをA面にするか」
そんな中学のころの議論と同じで、馬鹿げているのはわかっている。
それでも、僕はこの「セスクかイニエスタか」という言いあいに参加したい。
セスクがバルセロナに移籍してメッシにパスを出す日を想像したり、もしイニエスタがアーセナルにいたら、と想像したり、、、そういう時間はとても楽しい。
僕はちなみに断然セスクです。あのパスは、やばいです。
———
追伸 :
上のような文章を書きましたが、いやー、やっぱりイニエスタは凄いです。
2009年圧倒的なクラシコの勝利、チャンピオンズリーグ準決勝のチェルシー戦のゴール、そしてマンUをくだしての優勝。イニエスタのプレイを堪能したシーズンです。
特に、チェルシー戦のゴールは、多分、一生、忘れることはないでしょう。
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コメント
失礼します。いつも楽しく拝見させていただいています。
この二人の比較のように明確な答えのないことへの無駄な議論、私も好きです。
私としてはイニエスタです。二人とも上手くて、シンプルなプレーする選手だと思います。二人の違いを言うとセスクの方がよりリスクを犯してチャンスを作り、イニエスタの方が堅実でミスをしないプレイヤーという印象です。
「優秀なFWがいればゴールが奪える、しかし優秀なDFがいればタイトルが取れる」という言葉がありますが、これに習うと「セスクがいればゴールが奪える、しかしイニエスタがいればタイトルが取れる」そんな気がします。
まあ単独突破ができる分イニエスタの方が上でしょうね。
はじめまして。記事を楽しく読ませて頂きました。
私は断然、イニエスタの方が優秀だと思います。確かにプレースタイルは二人とも異なるので、比較することは難しいのですが、こんな考え方をしてみました。
仮に二人がそれぞれ弱小チームに在籍していると仮定した場合にどっちのチームが好成績を残すかな?と。
結果、味方の動きが遅くてもタメをつくることができ、かつ、単独でも得点出来るイニエスタのチームの方が好成績を残すかな。。と思います。
しかして実は本音は理屈抜きで、「バルサに在籍してるからイニエスタが上」です。
イニエスタはセスク程度と比べられる選手ではない。1試合、いや、一目見ただけで違いがわかる。
タイプで考えるとセスクはシャビと似たタイプだと思います。
そしてイニエスタも含めバルサの調子はシャビの調子にかかっています。
今シーズンシャビが欠場もしくは不調の試合ではイニエスタもあまり輝けていません。そういう時のバルサはメッシら3トップ頼みに陥るケースがよく見られました。
どちらが上とかでは無く、将来シャビの後継者としてのセスクがイニエスタと同じピッチでプレイする日が来る事を個人的に楽しみにしています。
初めて拝見しました。
非常におもしろかったです。
どちらが上か・・・。難しいですねぇ。
イニエスタがCLとってる分上かな?
アーセナルは面白いサッカーはするし、セスクを含め上手いメンバーが揃ってるけど、ユナイテッド・チェルシーを抑えてプレミアを制することは想像できないし・・・。
そんなこんなでイニエスタが上かな?
間違いないのは、二人ともスーパーなプレイヤーです。
イニエスタの方が上だと思います。
パス能力に関しては同じくらいだと思いますが、イニエスタにはドリブルがあります。また狭いスペースでのキープ力、高度なテクニックなどもイニエスタが上だと思います。セスクは中盤の底でゲームメイクするタイプで、イニエスタは中盤と前線、あらゆるポジションに高レベルで対応します。仮にイニエスタが中盤の底に入ってもセスクと同レベルの役割をこなせると思います。イニエスタを見ていると21世紀では最高の選手であろうジダンをも超えるような気がします。そのうちバロンドールも取るでしょう。現在最高の選手だと思います。
パスのセンスだけ見たら、セスクの方が上かもしれません。
ただ、やはりドリブルやシュートの決定力などイニエスタの方が優れていると思います。
そして、何よりあのトラップが超絶です。私もサッカー経験者ですが、
テレビでイニエスタの「絶対に相手が足を出せないトラップ」を見るだけで鳥肌が立ちます。
ジダンもそうですが、トラップで見る者を魅了出来る選手はスゴイと思います。
私も現在世界最高の選手だと思います。
初コメさせて頂きます。
この議論は面白いですね!
私個人の考えとしてはパスセンスはセスク、シュートやドリブルはイニエスタが各々優れているように思います。
二人が同じクラブチームでプレーする姿が見たいですね!
そもそもどちらが上かを考えること自体に意味がないと自分は考えています。人によって観点なども違うので。
CULEさんの「仮に二人がそれぞれ弱小チームに在籍していると仮定した場合にどっちのチームが好成績を残すかな?」という問いの立て方に興味をひかれました。
弱小チームにイニエスタが入ったときとセスクが入ったときとでは、確かにイニエスタが入ったときの方が強いと思います。
でも、その「元」弱小チームから絶対的エースである「イニエスタ」か「セスク」が再び抜けた後で比べると、セスクが抜けた後のチームの方が「強くなってる」んじゃないか、と、思ったりします。
僕は個人的にイニエスタの方が好きです。華麗なパス、豪快なシュート、堅実な守備、全てが揃っています。とは言ってもセスクも良いところはたくさんあります。お互い切磋琢磨して今よりも、もっと良いプレーをしてもらいたいです。