「セビージャはスター選手がいないが、それでも勝てたのは、謙虚さとハードワークをとても高いレベルで実践したからだ。スターチームは、遥かに努力をしないが、それでも一瞬で勝利をものにできる」
セビージャ監督時代のインタビュー 2007年1月24日 WorldSoccer.com より
電車で携帯ニュースをチェックしていると、「レアルの監督にラモス氏就任」という見出しがあった。僕の頭に浮かんだのは、「セルヒオ」と「瑠偉」の二人のラモスだった。
「うーん、それはねえな」と自分に向かって突っ込んだ。
そのラモスが、実はファンデ・ラモスだと知って、驚いたと同時に、居心地の悪い感じになった。クラブの上層部は、いったいどんな思惑でラモスを監督に選んだのだろうか?
ファンデ・ラモスは、顔が濃い50代のおじ様監督だ。選手時代はスペインの下部リーグにいて、目立つ実績はない。コーチになっても、下の方のクラブからはじめて、少しづつ自分の地位を上げていった人だ。
すべてが右肩上がりに、うまく行ったわけではない。バルセロナのユース監督というチャンスをもらったが、チームを下部リーグに降格させる痛い経験もしている。
それでも、06年と07年には、スペインのセビージャを、UEFAカップを2年連続で優勝に導く快挙を達成した。ヨーロッパ2連覇というのは、間違いのない実績だ。
どれほど権威のあるランキングかは不明だが、国際サッカー歴史記録学会では、06年と07年に「世界最優秀クラブ監督」の第3位になっている。
ちなみに、06年はライカールトとモウリーニョの次で、07年はアンチェロッティとファーガソンの次だった。
プレミアのトッテナムホットスパーズの監督になり、最初はラモスらしく、降格間際のチームを復活させた。さあ、プレミアの4強の一角を崩すのは、トッテナムか?
多くの人が期待したのに、2008年の新シーズンに入ると、まったく勝てない日々が続いてしまった。それもオーナーが我慢できないほど長く。
ラモスがトッテナムの監督を解任されたのは、ついこないだの10月25日だ。それが、12月にラモスは突然レアルのディレクターに朝食に呼ばれ、すぐに契約となったらしい。
「不意に訪れた大きな喜び」とファンデ・ラモスは、就任の会見でそう語った。
ファンデ・ラモスはもともと優秀な監督だ。彼がイングランドで結果を残せなかったのは、単純に言語の問題、という指摘は多い。英語が話せないため、チームにコミュニケーション不全を引き起こした、というのだ。スペインでなら、もちろん言語の問題はない。リーガに復帰してからは、時折サイドライン近くから、選手たちに指示を送っている姿がある。
ファンデ・ラモスは、チームが悪い状態ほど、力を発揮するタイプの監督でもある。
ダメだった時代のやり方をすべて変えて、徹底的に厳しいトレーニングで取り組む。
「時間割を変え、食事を変え、すべてを変えた。選手たちには以前のことはすべて忘れてもらいたい。何一つ残らないくらいね」
2008年4月14日 Mail on Sunday より
ファンデ・ラモス流の食事制限は、つとに有名だ。トッテナムで、選手全員で合計50キロの減量を実践し、それでも、もっとダイエットが必要だと語っていた。
トッテナムで、うまくいかなかった理由は、「ダイエットが足りなかったからだ」と冗談と本気ともつかない答えをしている。(余計なことだが、ラモスを取り上げる海外記事に表示される広告は、コンテンツと連動して、ダイエット系の広告が出ることが多い)
現在のレアルマドリードは、怪我人も多く(20人を超えているらしい)、かなり悪い状態だ。まず、守備を立て直すことが、何よりも必要とされる時期だ。
ファンデ・ラモスの厳しい締め付けを嫌うスター選手たちも、今の危機的状況なら、素直に指示に従うかもしれない。
12月13日のバルセロナとの対戦で、レアルマドリードは、見違えるように守備がしっかりとしたチームに改善されていた。結果は2-0で負けて終わったが、就任5日程度の時間で、チームをこれほど明確な方向に変えられるのは、間違いなくファンデ・ラモスの手腕だ。
しかし、首脳陣がどんな背景で彼を選んだのか? その点はひっかかる。
どうも最近、ディレクターのミヤトビッチがマフィアの幹部のように見えて仕方がない。
2連覇を達成したシュスターの落ち込みも不健康な感じがした。本来なら、シュスターをサポートすべきなのに、シュスターはまるで解任を待っていたかのような態度だ。
今回、ファンデ・ラモス監督に与えられた契約期間は6か月しかない。
その6か月の間に、結果を残せなければ、契約は継続されない。弱みに付け込んだ、嫌な感じがする。
今回は、全面的にラモスを信頼してまかせる、というよりは、オーナーたちが、自分たちの保身のため、とにかくこの場をしのげる監督を呼んだ、という疑いも生じる。もしかすると、水面下では来シーズン、意中の監督(ベンゲル?)と交渉を進める腹づもりかもしれない。
僕の勝手な推測だが、ヨーロッパの勝ち抜き戦に強い点、ヨーロッパのスーパーカップで、過去にバルセロナに勝った経験がある点、その二つの過去の実績が、「とりあえずラモスで」となった背景にあるように思う。とりあえず目の前のクラシコを引き分け以上で終えてくれ、という短期的な期待もあったように思う。
しかし、ラモスは、最初のクラシコに勝てなかった。ここ2試合の闘い方も、極めて守備的だ。
そして、2月からはじまるUEFAチャンピオンズリーグの決勝リーグの相手は、同じスペイン人監督で、ハードワークと守備を重視するリバプール。正直、ラモスにとっては最高に嫌な相手だろう。
トッテナムを解任されたのに、すぐに監督要請があった。しかも名門レアルマドリードからだ。オレはなんて運がいいのだ、と歓喜したことだろう。
しかし、家に帰り、ソファに座って改めて状況を冷静に分析してみると、そこらじゅうトラップだらけのようにも見える。
もし、UEFAチャンピオンズリーグでも結果が出せないようであれば、たとえ、ラモスが多くを改善し、そこそこの成績を残しても、オーナーたちだけでなく、スター選手たちも、きっと満足できないだろう。
20年以上の監督経験で、最大のチャンスと最大のピンチが一挙に来た。
ファンデ・ラモスは、果たしてスター選手を抱えるビッグクラブで結果を残せるのか?
それとも、中堅チームを立て直す監督として、レアル後を生きるのか?
監督人生の大きな分かれ目だ。
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