「日本にとって3度目のワールドカップは、初めて前を向くための大会になる」
ワールドカップ出場を決めた翌日、帰国会見での中田英寿の発言より
サッカーダイジェスト 「カリスマの指針」 2005年6月28日号 から引用
スタジアム観戦はテレビと全然違う。
当たり前じゃないか、と言われそうだが、大きく違うのは「選手の存在感=オーラ」がびんびんと感じれらる点だ。
選手の醸し出すオーラは、決して電波には乗らない。
数年前、マンチェスターユナイテッドの試合をスタジアムで見た友人が、ベッカムよりもファンニステルロイにぞくぞくした、と言っていた。
「ファンニステルロイが動き出すと、それだけで観客席がざわざわとなった。ベッカムはそれに比べれば、存在感がなかった」
何となくわかる気がする。
テレビでもてはやされている選手が、ピッチ上では必ずしも輝いていないことは、よくあることだ。逆にスタジアムに行くと、誰のオーラが強いかが、よくわかる。
だから僕は選手を評価する時、テレビのハイライトシーンには頼らないことにしている。実際に、ピッチ上で感じたオーラを基準にして、選手の力を評価するようにしている。
「脱いでもすごいんです」という言葉があったが、中田英寿はテレビでも存在感があるが、ピッチ上でもすごい。
中田英寿が代表に名を連ねてからの試合を、数多く見てきたが、いつも中田英寿の動きに目が釘付けになった。
中田英寿がボールをもらおうとして、動きはじめただけで「あっ!」と思い、敵のボールを奪おうと狙いをさだめたときに「あっ!」と思う。まして、中田英寿がボールを持てば、無意識のうちに手がぐっと握りこぶしになっている。
さて、冒頭の中田英寿の言葉。「初めて前を向くための大会」
最初、何気なく聞き流そうとして、おいおい、ちょっと待てよと引っかかった。
「初めて前を向くための大会? じゃあ今まではどうだったの?」
その時の中田英寿の会見の発言を引用してみよう。
「予選を突破することはできた。それは非常によいことだけど、正直、僕の目標はそこではないし、予選突破というのはあくまで一番最初の通過点。
今のこのチームを見た時に、まだワールドカップ本大会を戦い、勝ち抜けるだけの力はないと思う。
それだけにこれからの一年は、個人個人がレベルアップして勝ち抜けるチームになることが必要になってくる。
日本にとって、3回目のワールドカップは、初めて前を向くための大会になる。
今、必要なものは、チームとしてというよりも、まずは個人個人の意思が一番大きな問題だと思う」
じゃあ、これまでの日本代表は、前を向いていなかったのか?
そういわれれば、確かに、フランス大会は、チームが本気になる前に終わってしまったような印象だ。日韓の大会も、トルシエのもたらした戦術と混乱が、特に最後のトルコ戦では、チームを縛っているように見えた。結局、どちらも不完全燃焼に終わった気がする。
中田英寿は、過去の二つの大会がつまらなかったのではないか、とそう思う。
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ワールドカップって周囲が盛り上がる割りに、自分自身は完全燃焼できないな、とそんなふうに感じいるような気がする。この大会は、自分にとって、勝ち負けを超えたところで「やり遂げた、面白かった」という大会にしたい、と。
単純化すると怒られそうだが、中田英寿はチーム全体がより攻撃的になることを望み、自分自身もよりゴールに近い場所でプレイしたい、と思っているのではないだろうか。そして「チームの戦術」を超えて、選手たちの意思がゴールに向かっていくようになることを望んでいる。
ずっと前、アトランタオリンピックで、中田英寿を含めた若い日本代表はブラジルを破った。それは衝撃的な出来事だったが、西野監督が率いた当時のチームはとても守備的だった。現地で試合を観戦していた人たちも「何で前に行かないのか、いらいらするチームだった」と印象を語っている。あの時も中田英寿は不完全燃焼だった。
2006年のドイツワールドカップ。再び、日本はブラジルと対戦することになった。
ドイツ ドルトムントのスタジアムに立つ中田英寿が「やってやるぞ」と思っている。
そう考えると、体が自然にぶるっと震えるような感じがした。
できれば、スタジアムに行って、彼の最高のオーラを感じてみたい。
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