ミスをしないために必要なのは集中力。ゴールキーパーは90分間の大半をゲームの流れから切り離され、いわば「観客」として展開を見守ることに費やします。エルメス・フルゴーニ ブッフォンを育てたゴールキーパーコーチの言葉 ワールドサッカーダイジェスト 2007年5月3日号
「ゴールキーパーを子どもに持った親の気持ちってどんなですか?」
それは僕が彼に一度聞いてみたかった質問だ。
その人は尊敬するビジネスマンだが、時々二人でユースのサッカーについて話す。彼の子どもは、高校でも真剣にサッカーを続けている。ポジションはゴールキーパー。
まさか疲れたビジネスマンの二人が、仕事の愚痴も言わずに、ユースのサッカーについて語り合っているなんて、誰も思いもしないだろう。
「心配なんですよ、とにかく」
「心配?」
「もうとにかく心配。息子がミスをしないかな、とかね。ずっとそんな感じで試合を見てますよ」
他のプレイヤーのお父さんたちは、子どもがボールに触ったときに、ぐっと体の血がたぎる。でも、ゴールキーパーのお父さんは、息子がボールに触った時、心臓が少し縮んでしまう。
ゴールキーパーのミスは、確実に失点につながる。辛い特殊なポジションだ。
話は変わるが、先日転職した後輩と飲んだときの話だ。彼は迷いに迷った末に、大手外資系会社の「サポート部門」に転職をした。僕やあなたが使っているインターネットのサイトを運営する会社だ。
その後輩は僕にとって「先生」だ。ここ数年は彼に教えられることばかりだ。僕はいつもその後輩に感謝しているのだが、謙虚な彼は、僕を先輩として扱ってくれている。僕はそれに便乗しながら、心の中で彼に頭を下げてお礼を言っている。
久しぶりにその後輩に会った。転職した後、サポートの仕事が楽しい、という。「転職するとき、すごく悩みましたけど、大内さんの言葉で励まされて」
もちろん、僕は何を言ったかすっかり忘れている。まあ、いいかと思いながら、少し先輩面をしておく。
最近新しい会社どう? みたいな話からはじまって、お酒を飲みながら話している。しばらくは自分たちのネット業界の話をしていたのが、サッカーが好きな二人の会話は、いつの間にかゴールキーパーの話になっている。
「ゴールキーパーって試合の間中、ずっと声出してるって知ってる?」
「川口能活とか、いつも叫んでいる感じですよね」
「コーチングって言ってさ、要は10人のフィールドプレイヤーに起こることを予測して、彼らがいいプレイができるように後ろから声をかけてるんだよね」
高校生たちのサッカーを見に足を運んでいると、観客が少ない分、フィールドに響くキーパーの声がよく聞こえる。時々だが、声出しのうまいキーパーを見かける。そのゴールキーパーの声が、チームをぐっと引き締めている。その年代のサッカーを見ていると、そんなことが、僕のような素人にもわかることがある。
ミスをしないために必要なのは集中力。ゴールキーパーは90分間の大半をゲームの流れから切り離され、いわば「観客」として展開を見守ることに費やします。(中略)ブッフォンに話を戻せば、彼にセービングの機会が少ないのには、理由があります。そもそもシュートを打たれる機会自体が少ないのです。それは味方のディフェンダーが優秀だったからということもありますが、しかし、それに加えて、的確なコーチングでディフェンスラインを操っている点も見逃せないでしょう
そして、そのもっとも集中した「観客」であるゴールキーパーの声がよければよいほど、チームは少しづつ勝利に近づいていく。ボールは彼のずっと先にあるのに、こまめにポジションをずらしながら、声をかけている。誰も気づかないが、全体を俯瞰しながらディテールを詰める果てしない作業が続く。
実際、コーチングはゴールキーパーの重要な仕事のひとつです。つねに的確な指示を出し、また鼓舞したり、注意を促したりすることで、チームに落ち着きと安心感、そして自信を伝えるのです
「サポートの部門にいてさ、お客が何に迷うか、何に文句を言うかがわかっていれば、的確に声を出して、営業とか、広報とか、あるいはホームページを作っている担当者に伝えればいいんじゃないかな」
「ああ、お前らがちゃんとポジショニングしてくれれば、チームが勝てるんだぞって感じですね」
「そう、ブッフォンだよ」
「そうかオレって能活かぁ」
ウェブプロデューサーをやっているといつも痛感するのだが、ホームページがしっかりとユーザーの声に応えていると、とてもビジネスがいい循環になってくる。よく出来たディテールの詰まったサイトは、その会社を知らない間に元気にする。考え抜いたディテールの数だけ、じわじわとビジネスのゴールへ近づいていく。
100個以上のサイト創りに関わってきた僕の耳には、そのゴールに近づいていく足音がとてもよく聞こえる。そして、その詰まったディテールの価値は、ずっとずっと後でわかる。
きっとゴールキーパーにもそんな感覚があるに違いない。
ユースサッカーを語り合う父親の話に戻そう。
「息子がフィールドで声を出しているのを見ると、頼もしいなって思いますよね」
キーパーの息子がフィールドプレイヤーに向かって声をからしている。でも、その息子は家ではいつも黙っている。中学生や高校生なんてそんなものだ。
「最近どうだ?」なんて父親が聞いても、「別に」とか「ふつーだよ」としか言わない。
普段聞くことのない真剣な子どもの声を、そのお父さんはサッカーを応援しにいくと聞くことができる。自分の子どもが声をからして、チームを鼓舞している。
「そういう姿を見ると、たくましくなったな、と思いますよね」
チームを勝利に導く子どもの声。
「誰もそんな息子を誉めてはくれないんですけどね」
父親という観客が、そんな気持ちで見守っていることを、彼の息子はまだ知らない。
そのことに気がつくのは、やはりずっと後だろう。
コメント
すごい「ぼくもキーパーです」
ひろさん どうもです。
今回のEUROもブッフォンなどキーパーの活躍がめをひきます。不思議なポジションですが、僕は好きです。
ぜひ、その場所を楽しんでください。
僕もキーパーです。毎日やっています
ういーす
きょうたさん、がんばってください!